名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)3596号 判決
原告 毎日ビル名店会
右代表者会長 小島鎮一
右訴訟代理人弁護士 塚田昌夫
被告 ミドリヤシューズ有限会社
右代表者代表取締役 中川雅博
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、原告に対し、七四万〇二二〇円及びこれに対する平成一二年三月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
三 仮執行宣言
第二事実関係
(請求原因)
1(一) 原告は、名古屋市中村区名駅四丁目毎日ビル内の一階、中二階又は二階の店舗につき株式会社毎日新聞社(以下「毎日新聞社」という。)との間で賃貸借契約を締結して同所で営業中の個人及び法人を会員として結成された任意団体であり、代表者の選出、総会の運営(多数決原理による議決)、財産の管理、事業の運営に関する規約を設け、これに従って活動している。
(二) 被告は、昭和三一年一一月原告に入会して、会員となった。
2(一) 原告の規約は、(1)会員は、原告が各種事業を行うため、毎月定額の会費及び販売促進費を支払う旨、(2)会費及び販売促進費の金額、納入方法その他必要事項は、総会で決定する旨、及び、(3)会員が会費及び販売促進費の納入を遅滞したときは、年六パーセントの延滞金を支払う旨を定めている。
(二) 原告の総会において、(1)平成九年二月分から平成一一年五月分までの会費を一か月一万一四四〇円、販売促進費を一か月一万二〇〇〇円、(2)同年六月分から平成一二年二月分までの会費を一か月六五〇〇円、販売促進費を一か月一万二六〇〇円とそれぞれ定めた。
3 よって、原告は、被告に対し、(一)平成九年二月分から平成一〇年四月分までの会費及び販売促進費合計三五万一六〇〇円、(二)同年五月分から平成一一年五月分までの会費及び販売促進費合計三〇万四七二〇円のうち弁済ずみの五万二〇〇〇円を控除した残金二五万二七二〇円、(三)平成一一年六月分から平成一二年二月分までの会費及び販売促進費合計一七万一九〇〇円のうち弁済ずみの三万六〇〇〇円を控除した残金一三万五九〇〇円(総計七四万〇二二〇円)及び右金員に対する平成一二年三月一日から支払ずみまで年六パーセントの割合による約定損害金の支払を求める。
(請求原因)
1 請求原因1(一)、(二)の各事実は認める。
2(一) 同2(一)(1)、(2)の事実は認め、その余は争う。
(二) 同2(二)の事実は認める。
(抗弁)
1 被告は、原告に対し、平成九年二月から平成一〇年四月まで毎月の会費及び販売促進費として各二万三四四〇円(合計三五万一六〇〇円)を支払った。
2 被告は、原告に対し、平成一〇年四月原告を退会する旨の意思表示をしたから、同年五月分以降の会費及び販売促進費を支払う義務はない。
(抗弁に対する認否)
1 抗弁1の事実中、被告から原告に対し平成九年二月から平成一〇年四月まで毎月各二万三四四〇円(合計三五万一六〇〇円、以下「本件弁済金」という。)が支払われたことは認める。
2 同2の事実は争う。
(再抗弁)
1 仮に被告から原告に対し原告を退会する旨の意思表示がなされたとしても、条理上退会は毎日ビルから退去しない限り許されないから、その効力を生じるに由ない。毎日ビルは集団店舗の性格上、貸主と賃貸借契約を結んだ全借主が、強制的に原告に入会した扱いとなり、また、同ビル一階、中二階及び二階の賃借人が原告に入会することは、事実たる慣習でもある。そして、集団店舗の性格上、例えば、毎日ビル名店会の広告やチラシを配れば、全借主が恩恵を受けることになる等の事情から、毎日ビルから退去しない限り退会が許されないことは、条理上やむをえない。
2(一) 被告は、原告に対し、平成四年七月から平成五年九月までの会費及び販売促進費(合計三五万一六〇〇円)の支払義務を負担していた。
(二) 原告は、平成一一年五月頃、本件弁済金を右(一)の債務の弁済に充当した。
(再抗弁に対する認否)
1 再抗弁1の事実は争う。毎日ビルを退去しない限り、原告からの退会が許されないとする原告の主張は、任意団体の精神に反するものであって、何ら根拠がない。
2 同2(一)、(二)の各事実は否認する。被告は、平成四年六月に原告を退会し、その後退会中の会費及び販売促進費を支払う義務がないことを確認した上、平成五年一〇月に新たに原告に入会した。再入会後原告から退会中(平成四年七月から平成五年九月まで)の会費及び販売促進費の支払を催促されたこともなく、本件弁済金は、その支払がなされた平成九年二月から平成一〇年四月までの各月の会費及び販売促進費の弁済として授受されたものである。
第三当裁判所の判断
一 (一)原告が、名古屋市中村区名駅四丁目七番三五号所在毎日ビル内の一階、中二階又は二階の店舗につき毎日新聞社との間で賃貸借契約を締結して同所で営業中の個人及び法人を会員として結成された任意団体であり、代表者の選出、総会の運営(多数決原理による議決)、財産の管理、事業の運営に関する規約を設け、これに従って活動していること、(二)被告が昭和三一年一一月原告に入会して、その会員となったことは、当事者間に争いがない。
二 甲第一号証、第一〇号証、第一四号証、第一七号証の一部、乙第一号証、第三ないし第一三号証、第一六号証、第一九号証、被告代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、甲第六号証、第一七号証、原告代表者尋問の結果中この認定に反する部分は採用し難く、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
1 原告は、会員らが毎日ビル内の店舗で行う営業を促進するための共同事業として、春のまつり協賛セール、夏のサマーセール及び年末年始の大売出しや、年数回のネズミ駆除等の共同衛生環境活動をしているほか、会員相互の親睦のため新年の懇親会を行い、旅行会も平成一〇年まで行われていた。
2(一) 被告は、平成四年六月、会の運営をめぐり当時の原告の役員らと意見が一致しなかったことから、その頃、原告に対し、原告を退会する旨の意思表示をした。
(二) 右(一)の当時における原告の規約(昭和五九年制定)には退会を制限する規定はなく、その後も現規約に至るまで退会を制限する規定はない。かえって、右(一)の当時における原告の規約一五条には、六か月以上会費未納の会員は脱退したものとみなし、再入会する場合は未納分を脱退の月より全額納入しなければならない旨の定めがあり、昭和五九年一〇月には実際に会員の柳橋書店が脱会したことがあり、また、原告の平成四年度総会では、当時原告の代表者であり現代表者でもある小島鎮一は、会員の一人であるヨーヨーの未収金回収問題に関連して、原告は任意団体であり、当時の会則では強制力を行使することはできないと述べていた。
(三) 平成五年頃には、当時の原告の役員の一部が、「集団店舗に関する特別約定」と題する書面を準備し、毎日ビル内の店舗の賃借人は原告に加入し、原告の運営に協力しなければならないと記載した右書面に会員らの記名押印をもらって、賃貸人である毎日新聞社に提出しようとしたが、会員らの反対に遭い、実現するには至らなかった。
(四) ところで、被告は、右(一)の退会の意思表示をした後、毎日新聞社の関係者から、他の賃借人らと足並みを揃えてほしいと説得され、原告の運営が刷新されるとの約束もなされたため、平成五年一〇月原告に再入会した。被告の再入会当時の原告の規約(同年七月二九日から実施)には、六か月以上会費未納の会員は脱退したものとみなし、再入会する場合は未納分を脱退の月より全額納入しなければならないと定めた規定は廃止されて存在しなかった。被告は、右の再入会後会計監事に就任したが、その後後記の再退会後に至るまで、原告から、右(一)の退会の意思表示による退会中(平成四年七月から平成五年九月まで)の会費及び販売促進費について支払請求を受けたことはなかった。
3 その後、被告は、平成一〇年四月まで、原告の会員として、原告に対し、毎月当月分の会費として一万一四四〇円、販売促進費として一万二〇〇〇円(合計二万三四四〇円)をそれぞれ支払ったが、被告の営業が二年連続の赤字決算になるなど経営不振が続き、顧問税理士から経費削減の勧告がなされるに至ったため、平成一〇年三月二三日頃、原告に対し、同年四月限りで原告を退会する旨の意思表示をした。
そこで、右認定の事実に基づいて検討すると、原告は毎日ビル内の一階、中二階又は二階の店舗の賃借人らによって構成された任意団体であり、前示のように、季節毎の催しや環境衛生のための共同事業を行い、いわゆる権利能力なき社団に該当するものと解されるが、民法上の社団法人においては、社員は何時でも社団に対する一方的意思表示によって退社し、社員たる地位にあることから受ける拘束を免れることができ、定款又は総会の決議をもってしても、脱退を許さない旨を定めることはできないと解され、また、民法上の組合においても、存続期間の定めのないときは、組合員は何時でも脱退することができると規定され、さらに各種の協同組合法においても、脱退の自由が定められている。地方自治法二六〇条の二にいう地縁による団体に関する規定も、強制加入や脱退の制限を定めておらず、民法の社団法人に関する規定の多くを準用している上、構成員の加入、脱退があることを当然の前提としてこれら構成員の資格の得喪にかかる手続事項を定めることが望ましいとされている。そうしてみれば、右各法が定める団体と比べて、公益性、公共性が高いとはいえない原告において、条理上原告の主張するような退会の制限が是認されるべき理由は見当たらない。かえって、原告においても、現規約に至るまで退会を制限した定めがないだけではなく、かつて、六か月以上会費未納の会員は脱退したものとみなす旨の定めがあり(もっとも、前掲甲第一七号証や原告代表者尋問の結果中には、右の規約は、脱退したものとみなすことができるとしたものであるとの記載及び供述部分があるが、文言にも反するし、目的論的解釈としても正当性を認めることができない。)、乙第一九号証によれば、実際に原告を退会した会員もいたことが、原告の昭和五九年度決算書にも記載されていることが認められるから、原告においても脱退の自由が認められていたものというべきである。
してみると、被告が平成四年六月及び平成一〇年三月二三日頃に行った退会の意思表示の効力を否定すべき理由はなく、これにより被告は原告を退会したものということができる。そして、退会した会員が、退会中の会費及び販売促進費を支払うべき根拠も見当たらないから(なお、六か月以上会費未納の会員は脱退したものとみなし、再入会する場合は未納分を脱退の月より全額納入しなければならないとした昭和五九年制定の原告の規約一五条は、会費未納により脱退したものとみなされた会員が再入会した時の規定と考えられる上、原告が再入会した時には既に廃止されていたから、右のいずれの点からも、被告の退会中の会費及び販売促進費について、被告に支払義務を負わせる根拠とはならない。)、被告は、平成一〇年五月分以降の会費及び販売促進費の支払義務はなく、同様に退会中の平成四年七月から平成五年九月までの間の会費及び販売促進費の支払義務もなく、かつ、平成九年二月から平成一〇年四月までの会費及び販売促進費は被告において全額支払ずみである(なお、この間の被告の原告に対する金員の支払は、右の期間における各月の会費及び販売促進費に対する弁済であることが明示されていたものというべきで、原告が勝手にこれを他の期間の会費及び販売促進費に充当できるものでもない。)。
第四結論
以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋勝男)